VOICE

人もフルーツも集まる、笑顔の発着地。

道の駅はっとう

/ 駅長 松下聡子さん

あれ、こんなに明るかったっけな、ここ。
何年かぶりに訪れると、気のせいか、店内が明るく感じられた。
果樹栽培が盛んな八頭町の、八東地域にある道の駅。

季節に合わせた色とりどりのフルーツが並び、八頭町と若桜町を通る国道29号の休憩地点として多くのドライバーやバイカーが立ち寄る場所だ。

「こんにちは、今日はよろしくお願いします」

出迎えてくれた駅長の松下さんは、華やかなワンピースにエプロン姿で、一見すると駅長さんには見えない。そして、何より明るい笑顔がとても印象に残った。

「私、イベントとかで歌も歌うんです。そのうちにお客さんがギターをくれるようになって(笑)あとその外にあるプランターは地域の人が花を植えてくれています」

話を聞いた店内で、飾られていたギターが気になった。経歴から今の仕事にいたるまで話は1時間に及び、終始楽しそうに話す松下さん。予感は確信に変わっていく。うん、松下さんはただの駅長さんではない。

「私、もともとオタク気質で、やりだすとのめり込んでしまうんです。フルーツのことも、知っていくことが面白いし、今度はそれをお客さんに知って欲しくなる。興味のあることだけなんですけどね、そうやってハマっちゃうのは」

もともと鳥取市の出身で、幼い頃は絵が好きな子だった。進学はその他に興味があった農業や森林のことを学びたいと東京農業大学に進んだ。そこにいたのは、羊を連れて構内を歩く学生、花束の代わりにデコレーションした大根を贈る学生…。ユニークな校風で楽しく学生生活を送る中で、農業の楽しさに触れ、生産者とつながる仕事がしたいとJAに就職した。

「JAといっても、国、県、市町村と3段階に分かれていて、私は鳥取県の組織にいたんです。地域の農業を元気にしたいという思いがありながら、実際は監査や法務指導が担当で、現場に入っていきたいのにできないもどかしさがありました」

そんな時、八頭町に導かれる。八頭町の地域おこし協力隊のメンバーらともつながり、町を訪れることが増えていった。そんな時に、道の駅の駅長の後継者を探している話をもらう。

「半年か1年くらい迷ったんですけど、ここで頑張れば充実して仕事ができるかもしれないと思ってJAを退職し、八頭町の地域おこし協力隊としてここで働き始めた」

思い切って、前に進むことに決めた。

店長となったのは、2021年春から。想像以上に忙しかったが、その分のやりがいと充実感に満たされる日々が始まった。そこで、松下さんは“らしさ”を出していく。

JA時代のつながりを生かして、市場を通さず仕入れることもあれば、生産者さんに会いにいった。人に会う、好奇心をくすぐられる話を聞く、もっと農業が好きになる。そのサイクルはネットワークを広げ、道の駅に出荷してくれる生産者さんはどんどん増えていった。そして、好きなものに没頭する力をさらに発揮していった。

「商品のポップを自分で作り始めたんです。生産者さんも高齢の方も多いから『書かん』と言われることもあって『じゃ、書いときます』といって始めたら、全部書くようになってしまって。手に取ってもらうお客さんに『へー、面白いな、これ買ってみよう』と思ってもらいたいじゃないですか。そしたらどんどんハマってしまいました。」

生産者さんから話を聞いたり、自分で調べたりして解説付きのポップは、お客さんからわかりやすいと評判になっていった。フルーツ王国の道の駅だけに、梨だけでも30種類、そのほかブドウ、リンゴ、柿をはじめ、桃、イチジク、ブルーベリー、栗…。数えきれないほどのポップを手描きで作っている。

そして、必ずそこに描かれているのはフルーツが笑っている顔。

「誰かが笑ってくれるように見えますよね。ちょっとでもお店が明るくなればいいなと思って」

松下さんらしいポップが、今日もお客さんを楽しませる。

「りんごはどうするだいや?」

駅長を交代した時、突然周りの人に言われてなんのことかわからなかった。

「実は、ここの駅長は八頭町にある八東フルーツ観光園の園主も兼ねることになっていたんです。初めて知って、それからりんご生産者の道が始まりました(笑)ようやく去年からマシなリンゴができるようになりました』

駅長としてだけでなく、果樹園でも汗を流していて、これもまた多忙を極める。

冬の間は翌年のために枝を落とす剪定をし、春には花とりで花粉を取り出し、その後も交配、摘花、袋掛け…。10月の収穫の時期まで毎月のように違う仕事をこなしていく。

一日のうちに駅と果樹園を何往復もすることもあるそうだ。
そんな風に働いていると、知り合いや応援してくれる人も当然増える。

「軽トラで走っていたら手を振ってもらったりします。人との関係が深くなっていって、仕事ができている今が楽しいです」

最近は、お気に入りの品種の入荷を尋ねられることもあるとか。
ここでフルーツの魅力に出会う人は増えているだろう。

楽しい、好き。

その気持ちが繋がっていくような場所。
ここは、人もフルーツも集まる、笑顔の発着地。

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住所 鳥取県八頭郡八頭町徳丸625
電話番号 0858-84-3870
URL http://www.hatto-fruits.com/
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営業時間 9:00~17:45(11月~3月下旬は17:15まで) 
定休日 年末年始(臨時休業のお知らせはFacebookにて)