VOICE

こだわりと柔軟さで築いた伝統の甘味。

甘味屋

/ 石破金春さん

とにかく食事には気をつけてきた。
ハムやソーセージといった練り製品や自分が嫌だと思うものは口にしない。
もちろんタバコも、酒も嗜むことはない。
こだわりがあるとすれば、体に良いものをつくるということ。
それが味という技術になり、この店を55年続けさせてきた。

「昔は食べるものがなくてね。うちは百姓をしていたから食べるものには困らなかったけど、甘いものはなかなか貴重だった時代。僕は甘いものが好きで、甘いものに飢えていたんですわ」

15歳でお菓子づくりを始めた石破金春さんは、85歳になる今も職人として店に立つ。

「四里四方ってあるでしょう。自分が住んでいるところから東西南北16kmくらいまで。歩いていける距離にあるものを食べるのが、その地域の人たちにとって一番いいんだと昔から言われてきました。それで作ったものを食べて育つことが大事。人間性とか、健康とかそれで変わってくる気がするんです」

体のことに人一倍気をつかってきた人だ。
原材料へのこだわりは強く、自分の目でしっかりみて、信頼できるものを使ってきた。

果物が有名な八頭町内の柿、ブドウ、栗。隣の鳥取市河原町からはイチゴ、シャインマスカット。小豆は、以前は八頭町内で仕入れることができていたが、生産者がいなくなって今は北海道のものを使っているが、できるだけ地元のものを探してきた。

「国産と例えば海外産だと値段も全然違う。10分の1くらいかもしれない。それでも味が全然違うからそれは使ってこなかった。健康や肌艶は食生活からでしょう。変なものは使わないし、日持ちさせるようなものも混ぜないんです」

アサガオやキキョウといった夏の花をイメージしたものなど、季節に合わせて常時10種類以上は菓子を入れ替える。この日も次々にお客さんが訪れ、色とりどりの菓子がずらりと並んだショーケースを楽しげに見つめていた。

なんでも始めることよりも、続けることの方が大変だ。和菓子屋の世界も然り。昭和40〜50年代には鳥取県内に200軒あったのが30数軒になった。そんな中で、甘味屋は家族で看板を守ってきた。

「後継者がいなくてやめていくところが多くてね。うちは息子4人がみんな菓子職人としてうちにいて、去年からは3代目になる孫も一緒に働いてくれています。こういうのはなかなか珍しいでしょうな」

嬉しそうな金春さん。昔は、寝る間もないほどの忙しさだったそうだ。

「前は、和菓子屋というのは冠婚葬祭の時の料理菓子がほとんど。一箱に筍、椎茸、海老などの生菓子を入れるんです。結婚式なんかも昔は人数が多かったから、50、60個作らないといけない時なんかは家内と寝ずにやっていましたよ。昔はそれで成り立っていて、そのうちに料理菓子の合間にやっていた餅、煎餅、飴など、それぞれの専門に分かれていった」

「さ、食べてみてください、どうぞ、どうぞ」と、目移りするようなほど用意してくださったお菓子を勧められ、バナナ大福をいただく。口の中にふわりと広がる甘みを楽しんでいると、2代目の祐也さんが笑いながら子供の頃の記憶を辿ってくれた。

「店が忙しくて遊びに行けなかったのが嫌で、子供だったのでお客さん、来るなと思っていましたらから(笑)。でも、和菓子を作ってきた両親を見て、自分も作ることが好きだったし、自然と和菓子をするようになっていましたね」

4人を育てながら、忙しかった仕事量を夫婦二人でこなしてきた。
その背中は今も大きく映っている。

「僕ら5人がいてやっとできている。昔の人はよく働くというけど、その仕事を二人でやってきたと思うとすごい。当たり前のことだけど、続けてきているってすごいと思います」

金春さんは、とても柔らかな人だ。一つのことを続けることに、頑なにやり方を変えないことも強さであるなら、柳のようにたおやかに変化する柔軟さもまた強さだと思う。

「味が技術、味で勝負だ、とずっと言ってきた。そうすればお客さんはついてきてくださるってね。糖分量であったり、味であったり、時代に沿ったものに変えてきました。伝統っていうのは、同じ形、同じ味というのではなく、つながっていくだけのことですから」

味を決める際も、一人ではしない。家族や他の従業員も合わせ、みんなで意見を出し合う。良いお菓子をつくるためと思えば、そうする。そんな金春さんの姿勢は、新しい商品開発にも大きく役立ってきた。

甘味屋といえば、イチゴ大福。全国でもまだ作る人が少なかった頃、いち早く挑戦した。和菓子屋なのにイチゴなんか使ってどうする。そんな声もたくさん耳に入ったが、意に介さなかった。

「だめだったらいつでもやめたらいい。でも、やってみなければ何も始まらない」

それが一日2千個を売る看板商品となった。多い時は5、6千個を売り上げる。いただいたバナナ大福のように、その時期に合わせてブドウ、ミカン、パイナップル、など次々に種類が増えた。

実際に、和菓子ができあがる瞬間も見せてもらった。
鮮やかな練り切りが、ただの丸い塊からその手の中で見事な花に変わってゆく。

当店では、
信頼できる原料を使用し
まごころを込めて
和菓子を作っております。

これまで何千、何万と和菓子を作ってきた。その手つきは、とても優しかった。

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甘味屋
・住所:鳥取県八頭郡八頭町郡家119-1
・営業時間:9:00〜19:00(日曜日は午前中のみ )
・電話番号:0858-72-0651
・ホームページURL:https://amamiya.business.site/?utm_source=gmb&utm_medium=referral
・Instagram:https://www.instagram.com/amamiya119/?hl=ja