VOICE

ヤマメとともに五十年、みんなで育てた地域の宝。

私都養殖漁業生産組合

/ 竹内康紀さん 和田準一さん 田中英行さん

バケツからガバッと餌をすくって撒く。
人影に期待して近づいてきていたヤマメたちが、我先にと水面で跳ねる。

「24時間、365日。今は3人になったけど、順番に当直で魚の世話をしとる」

最年長87歳となった組合長の和田さんが言う。

養殖場ができたのは今から約50年前。試行錯誤を繰り返しながらヤマメやイワナを育て、地域の学校の給食やイベントでのつかみ取り体験、釣り堀の運営などを通して、八頭町の自然の恵みを楽しんでもらっている。

和田さんのほか、設立当初から一緒に働く82歳の竹内さんと、3年目で一番若手となる67歳の田中さん。地域の宝は、今、3人が守っている。

「誰もそんなことをしたことがないし、なかなか引き受ける者がおらんかった」

設立は昭和51年。その当時を思い出しながら竹内さんが教えてくれた。

きっかけは当時行われていた国の山村振興事業で地域おこしの取り組みとして、私都地域が選ばれたこと。地域おこしにつながるアイデアがなかなか出ない中、水温の低さや水質の良さを生かして魚の養殖業をしてはどうかと勧められ、組合が誕生した。

組合員は23人。地区の住民だけでなく、町長や町会議員、農協職員などで構成された。当時41歳だった和田さんと、36歳だった竹内さんは農協で勤めていながら組合に加入した。

「昼間は農協に出て働いているので、外部の人にお願いして夜は宿直をする。というのも、ポンプなどは使用せず、地形の高さを生かして私都川の支流から引いた谷川水を使っとるんです。草やゴミが入ってこないように網をしていて、そこが詰まらないように管理せんといけん。そうしないと魚が死んでしまうんです」

卵から孵化した小さなヤマメが水槽にいるため、逃げないように網目を小さくしなければならず、すぐに網に草木やゴミが詰まってしまうのだとか。盆も正月も関係なし。今も3人で365日の宿直を続けている。

「天気が良ければそんなに見て回らなくてもいいんですけどね。雨が降り出したら途中で起きて回らないといけない。二晩徹夜したこともありますよ」と田中さん。「まぁ、そんな苦労話は書かんでもええ」と竹内さんが照れたように言う。

見えないところで、ヤマメと向き合う時間がある。

ヤマメが7~8割、イワナが2~3割。たくさんの魚を受精卵から孵化させ、2年をかけて成魚に育てる。ただ、思ったように育てられるほど簡単ではないという。「計算はなかなかできない、生き物ですから」と田中さんは難しさも感じつつ、だからこそ楽しさも感じているようだ。

「同じように生まれても30センチになるのもいれば、15センチにならないものもいます。元気がなくても薬をやるわけにもいかないし、難しいですよ」

と田中さんが言えば、

「売れ行きも考えて魚の生育もコントロールしていく。餌を早く食べさせて大きくしたり、逆にゆっくり食べさせたり、水槽にいる魚の密度を変えたりね。餌もあまりやらなかったら今度は共食いをしてしまうし。獰猛ですから、ヤマメは」

と、経験豊富な和田さんが続ける。

「仕入れた6割は売れると思っていたのに、初年度は2割しか売れなかった。それだけ最初は育てるのも、経営するのも難しく大変だったなぁ。軌道に乗るのに10年かかった」

和田さんも、竹内さんも厳しい時代を知るだけに、今こうして地域のみんなに喜んでもらえることが嬉しそうだ。現在は、千代川へ放流するための販売、県東部の学校給食への卸し、地域の祭りなどで塩焼きを出したり、公民館や子供会などの活動で魚のつかみ取り体験を行ったりしている。

20数個も水槽がある養殖場では、2個の水槽は一般客が来て釣り堀体験ができる。鳥取市から30分という程よい距離にあり、自然豊かな場所でヤマメを釣って帰ることができる。お出かけ気分を味わうにはもってこいの場所で、2022年には約3千人も入り込み客数があった。

地域で守ってきた場所も、メンバーの高齢化もあるなどして田中さんが入る前は急に2人になってしまったとか。和田さんと家が真向かいにある田中さんを「昔から魚釣りが好きなのも知っていたし、なんとか頼めないかとお願いしてな」と口説いた。

「手伝いに来いと言われて、知らん間に入ることになってました(笑)見よう見まねで仕事を覚えましたね」と話す田中さん。この地域の人がつないできた養殖の仕事。「長く続いていますね」と言うと、竹内さんは「みんなで集まってよく酒を飲めたのがよかったくらいだ」と誤魔化すように、また笑う。

和田さんも、竹内さんも、田中さんも。

文字通り、ヤマメが暮らしの一部としてある。
思いがなければ、なかなか続けられることではない。

「釣れても釣れなくても怒って帰る人もおらんし。まぁ、みんなが喜んでくれるんですわ。それが嬉しいかなぁ」

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私都養殖漁業生産組合
・住所:八頭町福地156
・営業時間:9:00〜16:00
・電話番号:0858-74-0250
・URL:https://oideyazu.com/spot/kisaichi-yamame/