VOICE

緑ある日々を。心のゆたかさの種をまく

遠藤農園、OZ GARDEN

/ 小山由香さん 遠藤佳代子さん

20代の頃、姉妹でカナダを訪れた。

当時の日本はバブル期。華美な風潮にどこか違和感があったが、カナダはまったく違った。きのこ狩りに出かけたり、湖で泳いだり、ベランダで植えた花が咲いたら友人を呼んでパーティーをする。そんな日常が素敵だった。

「自然を楽しみながら暮らすっていいなぁと思いました。ずっと田舎にコンプレックスがあったんですけど、あれ、これって八頭でもできるんじゃないかって思ったんです」

と、妹の佳代子さん。

それまでの価値観は、ガラッと変わった。

創業78年になる遠藤農園。戦後に祖父がイモ苗を作って販売したところから始まり、父の代になると公園や道路の植栽といった公共工事も手がけてきた。

「継ごうという気もなく、当時は二人とも地元の銀行で働いていたんです。私、それまで内弁慶でキャラを封印して生きてきたんですけど、そこからスイッチが入りました」と佳代子さん。姉の由香さんも当時のエピソードを笑いながら教えてくれた。

「カナダから帰ったら佳代ちゃんが急に坊主に近い超ベリーショートにして。銀行員でそんなヘアスタイルの人います(笑)?もう家族みんなで『頭をけがしたことにして包帯を巻いていけ』と言ったんですよ」

銀行を退職して家業へ。姉は事務に、妹は現場に就いた。

カナダの経験がきっかけになったことは他にも。「佳代ちゃんの絵日記、すごいんですよ」とテーブルに並べられたのは数十冊のノート。「一日一日を大切に生きようと思ってカナダで描き始めた」という。周りをよく観察する癖がついて仕事にも生きているといい、最初の庭のデザイン仕事は、絵日記がきっかけで紹介された依頼だった。

「そこからですね。やりたいことを叶えるには、まずは寄せ植えからだ!と思って、本で気になる鉢をチェックし、東京へ出向いて直談判しました。リュックひとつで、土産の団子を持ってディズニーとも取引がある大きな会社に行くとか、今だったらできないかもしれないなぁ」

明るさと行動力を武器に、姉妹の挑戦が始まった。

「これだけはね、ずっと大事に続けようと思うんです」

二人が口を揃えるように、緑のある暮らしの魅力を伝えていこうと地道に続けてきたのが、ガーデニング教室だ。場所は、祖父がブドウを育てていた温室を改装したガーデンショップが「OZ GARDEN」。周囲は店を出すなら鳥取市内を勧めたが、どうしても八頭から広めていきたいと、ここにこだわった。

「ブドウ棚の下で季節の移り変わりを感じながら、毎月ここにきて何かを作ってもらうことをしようと始め、もう22年目かな。これまで300人くらいが通ってくれ、今年も約50人が来てくれています」

一番長い人は2期生でもう20年通っている。キッズクラスの子が社会人になって来てくれたり、土に触れる楽しさを覚えた子が「農家になりたい!」と実際に農業に就いたり。そうやって、少しずつ植物や自然に対する気持ちを伝えてきた。

地道な活動は、ここだけにとどまらない。2013年の鳥取市で行われた全国都市緑化フェアで湖山池のナチュラルガーデンづくりに関わってからは、公園づくりにも力を入れてきた。

「ここ(OZ GARDEN)で一生懸命やるだけでなく、植物にあまり興味がない人にも届けたいと思うようになりました。みんなが来る公園なら、そこで遊ぶ親子がちょっとこの木いいなとか、葉っぱ一枚でもいいな、芝生がいいなと思ってもらえたら意識が何か少し変わるかもしれないなって思うんです」

毎月第3水曜日。八頭町から近い鳥取市のスーパー「MARUI国府店」で庭を管理するボランティア活動をずっと続けている。

「庭づくりと、ここをコミュニティーの拠点にしたいというマルイさんの想いから私たちに声をかけてくださって、この活動を始めました。最初は5人だったけど、今は17人に増えました。みんなここが大好きで、買い物に来たらつい草を抜いて帰る人もいるんですよ」

その中の一人に話を聞くと、「姉妹のファンなんです」という女性。ガーデニング教室にたまたま通い始めて意識が変わり、今はボランティア活動にも楽しんで参加している。

「恥ずかしい話、植物に全く興味がなかったんです。でも、教室に通い始めると、私みたいな素人でもオズガーデンの花だときれいに咲くんですね。花は愛情をかけたらそれが返ってくる。緑を見るととても落ち着くし、毎日を少し丁寧に生きようという気持ちになれます。こんなに気持ちって変わるんだなぁって」 

9年前から八頭町にある船岡竹林公園も管理している。ここでも第3日曜日は同じようなボランティア活動を3年前から始めた。

「やっぱりこうしてみんなと一緒に作業していると楽しいし、頑張りたいなと思います。まぁ、ずっとどこかの草を抜いている感じ(笑)。でも、手がけたところが汚くなっていくのは寂しいし…。これは一人ではできないことなんですよね」

父を18年前に亡くし、母が継ぎ、姉妹に受け継がれてきた看板。

いつも笑顔の二人にも、それを守るために、乗り越えなければならないこともたくさんあっただろうと想像する。

「寝たら忘れるタイプだけど、難しいときだってある。でもお互いに吐き出して瞬時に切り替えられるのはありがたいですね。私は対外的な会社の付き合いもできないから、こうして草の根的なことをする」

そう話す妹と、

「佳代ちゃんがいるから仕事がおもしろいし、いなかったらうちは成り立たないですから。本当に根っことお花。私は地面で踏ん張って養分を花に送る役目です」

と話す姉。

緑のある心豊かな暮らしを目指し、

こつこつと、その種を蒔く。